ユネスコの無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」。その特徴と今後の課題

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2024年12月5日、ユネスコ無形文化遺産保護条約 第19回政府間委員会において、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本酒に限らず、日本には焼酎や泡盛、みりんなど昔ながらの独自の酒造方法があります。それが世界に認められました。

でも、「伝統的酒造り」と言われても抽象的すぎて何だかよく分からないですよね。そこで、ここでは「伝統的酒造り」をもう少し深堀りしていこうと思います。

 そもそも無形文化遺産ってなに?

「無形文化遺産」とは建物や絵画のように形のある文化財とは違い、歌や踊り、伝統工芸技術、お祭り、習慣など、形のない文化のことを指します。世界にはそれぞれの地域や国に固有の文化がたくさんあります。しかし、時代の変化やグローバル化の影響で、これらの文化が失われてしまう危険性も高まっています。

ユネスコはこのような貴重な無形文化遺産を保護し、後世に伝えていくために登録制度を設けています。登録されることでその文化に対する関心が高まり、保護活動が促進されることが期待されています。

無形文化遺産に登録されるためには次の基準を満たす必要があります。

  • コミュニティによって共有され、継承されていること
  • 世代から世代へと伝えられてきたこと
  • コミュニティのアイデンティティや創造性、社会的連帯感を支えていること
  • 無形文化遺産の保護のための取り組みが行われていること

要は時代を越えて続けられてきたこと、であることが条件となっています。

 無形文化遺産になるとどうなるの?

まず、国際的な認知度が向上します。ユネスコという国際機関がその価値を認めることで、世界中の注目を集めることができます。その結果、海外からの観光客が増え、地域の経済活性化に繋がります。また、他の国々との文化交流が盛んになり、国際的な理解を深めることができます。

次に日本人がその無形文化遺産の重要性を認識し、保護意識が高まります。若者を含め、多くの人々がその文化に興味を持ち継承していく意欲が高まります。その結果、伝統的な技術や知識が失われるのを防ぎ、後世に伝えていくことができます。

最後にユネスコ無形文化遺産に登録されることで、地域ブランドが確立され、地域の誇りが高まります。観光客の増加や、伝統工芸品の販売促進など地域経済の活性化に貢献します。また、その分野で働きたいと思う若者が増え、酒造業界への人材の流入が期待されます。

 無形文化遺産に登録されるデメリットは?

無形文化遺産に登録されることはその文化にとって非常に名誉なことですが、同時にいくつかのデメリットも考えられます。

まず、登録により商業化が加速するでしょう。観光客の増加に伴い商業化が進み、伝統的な価値観や雰囲気が損なわれる可能性があります。また、観光客向けに大量生産され、質が低下するケースも考えられます。要は無形文化遺産の本来の目的である「保護」ではなく、金儲け第一の酒造りを行ったり、それを目的とした他業界から新規参入が増えるでしょう。

次に地域住民の負担が増加します。観光客増加に伴うインフラ整備や、伝統文化の維持・継承のための費用負担が増加し、地域住民に負担がかかることがあります。今まで地域のために酒造りをしていた酒造会社が、外ばかりを見るようになり地域を疎かにする可能性も高まります。それは結果的に地域住民にとっての負担となります。

最後に登録基準の厳格化により、新しい酒造りへの挑戦ができなくなる可能性もあります。無形文化遺産は一度登録されると、その基準を維持し続けることが求められ、伝統的な手法や材料にこだわることで、現代社会での活動が制限される可能性があります。

 若者の無形文化遺産に対する認知度

無形文化遺産の目的は次の世代に向けて、世界中の大切な文化を残していくことにあります。しかし、無形文化遺産そのものの認知度が低ければ、その効果は限定的でしょう。残念ながら、現状は若者の無形文化遺産に対する認知度は十分とは言えない状況です。その理由はいくつかあります。

まずは、純粋に身近に感じないからです。スマホやインターネットなど、デジタルな情報に慣れ親しんでいる若者にとって、無形文化遺産は古くさいもの、自分たちとは関係のないものという印象を持っている場合が多いです。

また、学校教育において無形文化遺産に関する授業が十分に行われていないため、知識が不足しているケースがあります。その影響もあり、近年、伝統文化に対する関心が低下している傾向があり、特に若い世代では伝統文化に触れる機会が少ないという現状があります。

ただし、このような現状は日本人の若者の特徴であり、海外の人からみれば日本の伝統的な文化に強い関心を持つ人は多く、今後も増えていく可能性を秘めています。でも、それでは本末転倒であり、大切なのは日本人自身が自国の伝統文化に関心をもつことです。これにどのように対応するのか、それが今後の文化庁の課題でもあるでしょう。登録されることが目的、ではなく、登録された後のアクションが重要です。

 伝統的酒造りとは

日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは、日本が誇る食文化の国際的な評価の高まりを示しています。500年以上の歴史を持つこの技術は、米や水を使い、麹菌の働きによって酒を醸すという、自然との共存が特徴です。

地域ごとに異なる気候風土や原料、製法が発展し、日本酒、焼酎、泡盛など多様な酒を生み出しています。この登録を機に日本の酒文化はさらに世界へ広がり、若者を含め多くの人々に愛されるようになることが期待されます。

詳しくは国税庁が「伝統的酒造り」のPR動画を公開していますのでご視聴ください(5分くらい)。

Yasuyuki Ito

Yasuyuki Ito

京都市在住。 日本ソムリエ協会認定SAKE DIPLOMA(2018年度合格/No.2153)、SAKE検定認定講師。(社)日本ソムリエ協会正会員(No.29546)。大学卒業後は(株)マイナビに入社し約10年間、顧客企業の新卒・中途採用領域における採用ブランディング、クリエイティブディレクションを経験しました。30代はワインにハマり、40代は日本酒にハマる。さて、50代は何にハマろうか。

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