2023年4月の時点で、飲食店の非正社員の人手不足割合は85.2%と全ての業種において最も人手不足となっています。正社員の人手不足割合も61.3%と高く、深刻な状況です。このような状況はコロナ禍の影響や、少子高齢化、働き方改革など様々な要因が複合的にこの問題を引き起こしています。
この人手不足により飲食店は次のような課題を抱えています。
- 人材不足によるサービス低下や営業時間の短縮、閉店などのリスク
- 労働環境の改善や、魅力的な給与体系の構築など根本的な対策が必要
- IT導入による業務効率化や、外国人労働者の受け入れ拡大なども検討する必要がある
慢性的な人手不足を解決するには、従来のようにアルバイト・パートに依存した雇用ではなく、正社員雇用が必要になるでしょう。
飲食店が正社員を雇用するメリット
飲食店が正社員として従業員を雇うメリットは主に次の4つです。
- 安定した人材確保: 離職率が低くなり、長期的な視点で人材育成が可能に
- 高いモチベーション: 責任感や帰属意識が高く、質の高いサービスを提供できる
- スキルアップ: 長期的なキャリアプランに基づいた研修や教育を実施できる
- マネジメント層の育成: 将来の幹部候補となる人材を育成できる
正社員は長期雇用を前提として採用するため、短期雇用を前提としたアルバイト・パートと比べると離職率が低くなり、採用活動の労力を省くことができます。また、長期雇用であるが故に、人材育成も長期的な計画を立てることができます。その結果、時間をかけて将来の幹部候補を育成したり、多店舗展開した場合のマネジメントを任せることができます。
正社員で採用される従業員のメリット
飲食店で働く場合、正社員で採用されるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
安定した収入と福利厚生が得られる
- 最低賃金以上の安定した収入を得られる
- 社会保険や雇用保険などの充実した福利厚生を受けられる
- 将来への不安を軽減し、仕事に集中できる環境が得られる
キャリアアップの機会が得られる
- 研修制度や資格取得支援制度を通してスキルアップを図れる
- 店長やマネージャーなど、キャリアパスが明確になる
- 将来的な独立や転職に向けてスキルを磨ける
ワークライフバランスの実現できる
- 定休日の取得やフレックスタイム制などの制度を活用し、仕事とプライベートの両立を図れる
- 育児・介護休暇などの制度が充実している
- 充実した制度により心身の健康を維持し、モチベーションを高めることができる
仲間との充実した人間関係が得られる
- チームワークを重視した職場環境で、仲間と協力しながら仕事に取り組める
- 職場での人間関係を通じて、やりがいを見出すことができる
- 経営層からアルバイトまで幅広い人間関係を得られる
正社員として長期間働けば、相応の知識・スキルを得ることができます。この経験を得ることで、将来の自分のキャリアパスを描きやすくなり、働くことのモチベーション向上に繋がります。また、人間関係も幅広くなり、仕事だけでなくプライベートも充実するでしょう。
正社員を採用する店のメリット
では、正社員を雇用する飲食店側のメリットは何でしょうか。
人材確保と定着率の向上
- 優秀な人材を確保し、長期的に活躍してもらうことができる
- 従業員の定着率が向上することで、教育・研修コストが削減できる
- 離職率の高いアルバイトに比べて、人材育成に投資しやすい
サービス向上により顧客満足度も向上
- 経験豊富なスタッフによる質の高いサービスを提供できる
- 顧客との信頼関係を築きやすく、リピーターを獲得しやすい
- 従業員のモチベーションが高く、顧客対応にも丁寧に対応できる
生産性が向上し、コストが削減できる
- 熟練したスタッフによる効率的なオペレーションが可能に
- 教育・研修にかかるコストを削減できる
- 長期的な視点で人材育成を行うことで、将来的なコスト削減にもつながる
企業イメージの向上
- 働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる企業として、社会的な評価を高めることができる
- 優秀な人材から応募を受けやすくなる
正社員として長期雇用することができれば、採用活動を減らすことができるため、採用コストをカットすることができます。また、長期雇用で従業員の知識・スキルが向上するため、そのサービスを受けるお客様の満足度が高まります。その結果、リピーターが増え、売上も安定します。店の評判が良くなれば露出する機会が増え、顧客獲得だけでなく、人材採用も楽になるでしょう。
正社員雇用における課題
良いことばかり紹介しましたが、それを実現するには解決すべき課題があります。
人件費の増加
- 正社員の給与はアルバイトに比べて高いため、人件費が増加する
- 研修制度や福利厚生などの費用も考慮する必要がある
長時間労働
- 飲食業界は長時間労働が常態化しており、人材確保が難しい
- ワークライフバランスを実現できる仕組みを構築する必要がある
離職リスク
- 入社後すぐに辞めてしまうケースもあり、採用コストが無駄になる
アルバイト雇用の場合は、最初から飲食業界で働くことを前提としている応募者が多いのですが、正社員雇用の場合は飲食業界以外の会社と競合することがあります。その場合、他の一般企業の給与や福利厚生と比較されることになるため、見劣りしない雇用条件を用意しなければいけません。
正社員雇用の課題を解決する方法
では、これらの課題はどのように解決すればよいのでしょうか。
給与体系を見直す
- 成果報酬制度や役職制度などを導入し、モチベーションを高める
- 分かりやすい見返り(給与、役職等)を用意する
働き方改革を行う
- 業務効率化やIT導入などにより、労働時間を削減する
- 休憩制度や育児・介護休暇制度などを充実させる
教育・研修制度の充実
- 新入社員研修やOJT、キャリアアップ研修などを充実させる
- 従業員が自己成長を認識できる場を用意する
コミュニケーションの活性化
- 定期的な面談や懇親会などを開催し、上司と部下のコミュニケーションを活性化する
- 従業員の意見を積極的に取り入れる仕組みを構築する
今までのやり方を踏襲したり、飲食業界ならではの慣習を頑なに守るのではなく、他の業界と比較しても見劣りしない労働条件を整える必要があります。「飲食業は他業界とは違う」という思い込みを経営陣が持ち続けると、飲食業界の正社員雇用は改善されないでしょう。
まとめ
飲食店における正社員雇用は人材確保・定着率向上、サービス向上・顧客満足度向上、生産性向上・コスト削減、企業イメージの向上など、多くのメリットをもたらします。もちろん、課題も存在しますが、給与体系の見直し、働き方改革、教育・研修制度の充実、コミュニケーションの活性化などの対策を講じることでこれらの課題を克服することができます。
飲食業界は日本ならではの魅力を発信できる、社会的に重要なポジションだと考えます。だからこそ、優秀な正社員を雇用し、長期的に組織に貢献できる人材を育てる必要があります。
飲食業の経営陣の皆さんには、アルバイト雇用に依存するのではなく、アルバイトから正社員への転換、他業界から飲食業界への転職など様々な取り組みにトライしてみてほしいです。