国内外に和洋菓子店を展開する株式会社シャトレーゼ。その持株会社であるシャトレーゼホールディングス(山梨県甲府市)が、2024年2月29日に日本酒「白馬錦」を醸す株式会社薄井商店(長野県大町市)の株式を取得し子会社化したと発表しました。
既にシャトレーゼはワイン製造販売に参入しており、今回の子会社化はそれに続く酒類製造事業展開の一環でしょう。これにより、今後は薄井商店が製造した日本酒がシャトレーゼの店舗でも販売されるようになります。また、シャトレーゼが製造する和洋菓子に酒粕等を使用した新しい商品が並ぶようなると言われています。
私は今回のニュースを見るまで薄井商店という酒蔵はもちろん、白馬錦という銘柄さえ知りませんでした。おそらく、全国にもそのような人が多いと思います。しかし、今回の子会社化により白馬錦の知名度が全国的に高まるでしょう。薄井商店にとっても、シャトレーゼにとってもデメリットがないWIN WINの選択だと思います。
酒蔵の経営資源安定のために大手の資本は必要不可欠
今後も今回のように大手資本が地方の小さな酒蔵を子会社化するケースが増えると思われます。小さな酒蔵の経営課題はマーケティングと販売網です。減少を続ける酒販店に依存する従来の経営では売上は減る一方でしょう。その点において、全国に販売網を持つシャトレーゼのような存在と組めば、一気に課題は解決され、今まで以上に商品開発と製造に集中できます。また、全国各地から届く購入者の声を手に入れることで、競合他社との差別化を図れるようになるでしょう。
日本には地方銀行が多すぎる、と最近よく耳にしますが、私は同様に酒蔵も多すぎると思っています。特に問題なのが全体的に企業規模が小さいこと。業界内では大手と言われる月桂冠でさえ従業員は350名ほどで、他の業界では中小企業に分類される規模です。
企業規模が小さいと様々な問題が生まれます。人材・資金・設備等経営資源の不足、後継者不足、技術力の低下、販路の確保など。特に問題なのが人材です。経営が安定していない企業に入社したいと思う人材はいません。中でも製造に直接関わらない部門(宣伝広報、マーケティング等)の人材が酒蔵には圧倒的に不足しています。
企業の規模を大きくするためには製造以外の人材が不可欠です。でも、現在の酒蔵の多くは規模が小さいため、経営資源が不足しており、現状の雇用を維持するだけで一杯一杯な状態です。とても間接部門の人材を雇う余裕などないでしょう。
でも、他分野から日本酒業界に優秀な人材が流入すれば、もっとこの業界は変われると思います。そのためにも積極的に大手とタッグを組み、経営資源を安定させることが必要です。その結果、大学生のような若手人材が積極的に酒造業界に入りたいと思うようになれば、この業界はまだまだ伸びると思います。
海外に美味しい日本酒を置いてほしい
話は少しずれますが、私は海外の空港で食事をする時は和食を選ぶことが多いです。特に日本に帰国する直前は現地食に飽きて和食に飢えています。そんな和食が食べられる店の多くでは日本酒がメニューに載っています。でも、この日本酒が実に美味しくない(マズいとは言いません)。
和食店には日本人だけでなく世界各国からの旅行者が集います。当然、その中には日本酒を飲む人もいるでしょう。その人がこの日本酒を飲んだら、日本酒のイメージが悪くなるのではないかといつも考えてしまいます。もっと美味しい日本酒を置いてよ、と。日本酒を世界に広めたいんでしょ?、と。
でも、それが出来ないのが今の日本酒業界の問題なんですよね。結局、大手が造るアル添酒しか置くことができない。しかも、その多くが日本国内ではスーパーで売っているような安酒。それじゃ、お金を持っている、舌の肥えた外国人を満足させることはできません。
せめて、日本人が海外で日本酒を飲んだ時に「美味しい!」と感じられる商品を置いてほしい。日本人が満足できないようなお酒を置いてはダメですよ。横で日本酒を飲む外国人に対して「どう?日本酒美味しいでしょ!」って誇れるような状態にしないと。
空港ってテストマーケティングに最適な場所だと思うんです。街中のように店の選択肢が多くないから、いろんな人が一つの店に集まります。富裕層もいればバックパッカーもいる。ファミリーもいれば一人旅もいて、社員旅行のグループもいる。もちろん、国籍も宗教もいろいろ。そんな多様な属性を持つ人を満足させることができる日本酒って何なのか。もっと、よく考えて商品を選んでほしい。
いつか、バンコクのスワンナプーム国際空港で美味しい日本酒が飲める日が訪れることを楽しみにしています。この空港で日本酒が人気になれば、きっと世界中どこでも成功するはず(たぶん)。「スワンナプームでは美味い日本酒が飲めるらしいぞ!」って旅行者の間で噂になれば、すごくないですか?