日本酒を勉強したことのある人なら「全国新酒鑑評会」という言葉を聞いたことがあると思います。これは酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が毎年実施している日本酒を評価するためのイベントです。この鑑評会は次の目的で実施されています。
全国新酒鑑評会は、その年に製造された清酒を全国的に調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を明らかにし、もって清酒の品質及び製造技術の向上に資するとともに、国民の清酒に対する意識を高めることを目的としています。
全国新酒鑑評会は、現在、全国規模で開催される唯一の清酒の鑑評会です。清酒業界に関わる人であれば知らない人はいないほどメジャーなイベントですが、一般市民の認知度はかなり低いと思います。
身内同士で評価しあう鑑評会
さて、この全国新酒鑑評会は誰が審査するのでしょうか。「国民の清酒に対する意識を高める」ことも目的であれば、消費者視点での審査も必要だと感じますが、実際はこの業界に属している人だけで審査されます。令和3年度の審査委員の属性をご紹介しましょう。
(予備審査委員)計24名
- 酒造メーカー:6名
- 技術センター:6名
- 国税庁関連職員:6名
- 酒類総合研究所:6名
(決審審査委員):計20名
- 酒造メーカー:5名
- 酒類販売業者:1名
- 技術センター:2名
- 国税庁関連職員:6名
- 酒類総合研究所:6名
ご覧のように役人とメーカーとシンクタンクが大半を占めています。消費者の視点を取り入れるのであれば、小売業や外食産業からの審査委員も入れるべきだと考えますが、そういう考えはなく、きっと「昔からそうだから今もそうしている」という慣習の中で行われているのでしょう。審査委員の構成を見る限り、時代とミスマッチしているように感じます。
意外と審査はゆるい?約半分の出品酒が入賞しちゃう。
全国新酒鑑評会の審査結果が出ると、各清酒メーカーは「この日本酒は全国新酒鑑評会で金賞を受賞しました!」と自社ホームページ等で大々的にPRします。全国新酒鑑評会のことをよく知らない消費者はその言葉に惹かれて買ってしまうのだと思いますが、ちょっと待ってください。本当にその賞に価値はあるのでしょうか?
令和3年度の出品点数は826点ありました。そのうち、入賞及び金賞受賞した酒の数は次の通りです。
入賞酒 | 405点 |
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金賞数 | 205点 |
この数字を元にそれぞれの受賞率を出すと、入賞する確率は約49%、金賞受賞の確率は約25%になります。「金賞」と聞けば、多くの消費者は「1位」の酒をイメージすると思います。しかし、実際は4本に1本が金賞受賞酒で、その205本の中の順位付けは行われていません。また、その酒がなぜ金賞を受賞できたのかという理由も公開されていません。つまり、私たちが金賞受賞酒を購入する場合、金賞受賞という事実以外の判断基準が示されていません。実際には金賞受賞酒であっても205本分の特長があり、それぞれ魅力が異なると思うのですが。
審査会に対して批判的な文章が多くなりましたが、審査会によって酒蔵の技術力が向上したり、蔵人のモチベーションが上がることは事実です。当然、これからも続いていく伝統だとは思います。でも、これからの清酒マーケットでは審査会で受賞することを目的とした酒造りでは通用しません。今は「日本酒」が日本発の特別な存在かもしれませんが、今後は「SAKE」としてグローバルで競争する商品になり、規制に守られていた今までとは環境ががらりと変わります。
そんな環境では内向きな酒造りではなく、外向きの酒造りが必要になります。業界内で褒め合うような緩い環境から脱し、世界中の肥えた舌に評価してもらうにはどうすればよいのか、そろそろ真剣に考える時期にきているのではないかと思います。